2020年東京オリンピックのおもてなしについて(第一回)

おもてなしのイメージを世界に知らせたのは、東京オリンピック招致のプレゼンテーションをされた滝川 クリステルさんでしたが、その中で話されていたことは、「東京は、世界一安全な街である。交通機関も整っていて、街中が清潔。ホテルも世界最高峰のレストラン、ミシュランガイドでは世界一星の数が多い。」という内容でした。


確かに、間違いではないと思いますが、おもてなしは、本来、もてなす人が、心をこめて客人を迎えることであり、「一期一会」でおもてなしの本質を語ることができると言われるように、その場・その時を大切にして、迎える側と迎えられる側が互いに心を通い合わせる空間を作り上げることを目指すものです。


日本のおもてなしは、茶道の大家、千利休が、その基礎を築いたと言われていて、「利休の七則」に表現されています。「利休七則」とは、千利休が遺した言葉で、お茶の基本の心構えである「おもてなし」について記した七つの心得のことです。
 ①茶は服の良きように点て
意味 「何事も相手の立場、気持ちになって考える」
②炭は湯の沸くように置き
意味 「何事も丁度良い配置や手順を考える」
 ③花は野にあるように
意味 「何事も自然にある美しさを活かす」
④夏は涼しく冬暖かに
意味 「何時も季節の移ろいを大切にせよ」
⑤刻限は早めに
意味 「何時も約束の時刻より少し早めにせよ」
⑥降らずとも雨の用意
意味 「何時もあらゆる準備を怠るな」
⑦相客に心せよ
意味 「何事も周囲に対する気遣いを忘れるな」
 
要約すると「心をこめて、本質を見分け、季節感を大事にし、ゆとりを持ち、互いに気を配り、尊重しあう」のが大事だと書いています。
英語では、よくサービス、ホスピタリティーと比較されます。サービスは、主人と客の上下関係がありますが、ホスピタリティーは、 おもてなしとより近い言葉で、主客の関係が対等であることなどから「Japanese hospitality」と訳されていますが、ニュアンスがかなり異なります。


おもてなしの場合は、予め、予測できる客人を対象としていて、相手と一定の距離を置き、礼儀がはいってくること、特に、気配り、目配り、心配りの大事さが強調されます。一方、ホスピタリティの場合、距離感を感じない、家族的な慈しみと、温かさのある言葉です。三つの「配り」は、西洋には無い言葉だと言われていますが、気を使っていないのではなく、親しみの中に、自然に「配り」の心が入っていて、主人側も客側も気づいていないだけではないかと思います。
ホスピタリティの言葉の由来は、14世紀にヨーロッパで猛威を奮っていた、黒死病(ペスト)でヨーロッパ全土の三分の一が亡くなっていた頃、命をかけてペスト患者を迎え入れたのが修道院でした。


ペストは伝染病だったため、修道院院長がペスト患者によって感染して亡くなったり、全員がペストで死ぬこともあったけれども、恐れずペスト患者を抱き抱えて、手当てした、修道院の精神から、ホスピタリティ、ホスピス、ホスピタリティの言葉が来ています。なので、予期しない人たちを、無償で、命をかけて、二十四時間体制で助けた精神が原点にあります。


日本独自のおもてなしのよさ、ホスピタリティのよさが、それぞれあって、どちらが優っているというのは無く、根本に相手を知ろうと関心を持ち、相手の願っていることをしてあげようとする心が真実にあるかどうかが問題で、互いの良さを補い合う、新しい「おもてなし」が、2020年東京オリンピックでは、必要になってくると思います(続く)